約十数年前の話。
株式投資をはじめて9年ほど経ち、そこそこの資産を手にし、
前年にリーマン・ショックも経験していたことも影響したのか、
富と幸福をテーマに様々な本を読み漁った時期があった。
お金があれば幸せになれる。
誰もが一度はそんな考えに囚われたことがあるだろう。
私も株式投資をはじめた当初の想いがまさにこれだったし、
新NISAで投資デビューした方々が、今まさに考えていることかもしれない。
あらゆるものが経済価値によって成功と失敗に分けられがち。
だから富こそが世の中で最も価値があると考えても仕方がない。
でもここから離れることができれば、投資がもっと楽しくなる。
それをどう伝えて言ったらいいか分からないのが最近の悩み。
とりあえず当時、読んだ本を再読してみようと、
バートランド・ラッセルの「幸福論」を手に取った。
「典型的な現代人が金で手に入れたがっているものは、もっと金をもうけることで、その目的はと言えば、見せびらかし、豪勢さ、これまで対等であった人たちを追い越すことである。」P53
生まれた家柄でおおよそ人生が決まる社会から解放され、
同時に生まれたのが、競争を勝ち抜いて富と成功を!という欲求。
しかし社会の進歩とともに人々の欲求は青天井に上昇し、
いくら稼いでも幸せはいつも少し先に見える手の届かない存在に…。
また他人との比較は幸福の大きな障害である「ねたみ」を生む。
「他人と比較してものを考える習慣は、致命的な習慣である。何でも楽しいことが起これば、目いっぱい楽しむべきであって、これは、もしかしてよその人に起こっているかもしれないことほど楽しくないんじゃないか、などと立ち止まって考えるべきではない。」P95
ほとんどのメディアが個人投資家を取り上げる際に、
「FIRE」や「億り人」といった略称を付けてくる。
保有資産で人に値段を付け、競争させているように見える。
こうしたくだらぬ情報に踊らされると、幸福はより遠ざかる。
ちなみにラッセルの「幸福論」は、全17章の構成で、
- 前半9章は「不幸の原因」について
- 後半8章は「幸福をもたらすもの」について
説かれている。
上記2つは前半部からの引用だ。
後半部の中でおそらく私が一番影響を受けたのは、
「人間、関心を寄せるものが多ければ多いほど、ますます幸福になるチャンスが多くなり、また、ますます運命に左右されることが少なくなる。かりに一つを失っても、もう一つに頼ることができるからである。ありとあらゆることに興味を持つには、人生は短すぎる。けれども、日々を満たすに足りるだけ多くのものに興味を持つのは、結構なことだ。」P176
投資のことしか語らない投資家なんてつまらないし、
投資リターンは人生のオマケにすぎない。
私がそんな考え方になっていく過程で出会った一冊だった。
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