老子の(33章)「足ることを知る者は富めり」にはじまり、
古今東西で説かれた「足を知る」ことの大切さ。
もちろん中国古典の集大成である菜根譚にも残されている。
まずは前集55項と66項を続けて紹介すると、
奢る者は富みて、しかも足らず。
何ぞ倹なる者の貧しきに、しかも余りあるを如かん。
能ある者は労して、しかも怨みに府まる。
何ぞ拙き者の逸にして、しかも真を全うするに如かん。
贅沢な人はいくら豊かになっても満足できないものだ。
貧しくとも心に余裕を持って生きた方がよいではないか。
才能のある人は努力しても人の恨みを買うものだ。
不器用でもありのままに生きた方がよいではないか。
人は名位の楽しみたるを知りて、
名無く位無きの楽しみの最も真たるを知らず。
人は飢寒の憂いたるを知りて、
飢えず寒えざるの憂いの更に甚しきたるを知らず。
世間では名誉や地位があることが幸福とされるが、
そうしたことに無縁の人の方が幸せに生きている。
世間では飢えや寒さに耐える暮らしは不幸とされるが、
そうしたことに無縁の人にはそれより苦しい心の悩みがある。
隣の芝生は青く見えるもの。
でも本当は私の芝生もあなたの芝生もいつも青々としている。
いつだって今いる場所が一番幸せのはずなんだ。
それが分からなければ、常にないものねだりで悩むだろう。
最後に後集70項より。
寵辱に驚かず、閑かに庭前の花開き花落つるを看る。
去留に意無く、漫ろに天外の雲巻き雲舒ぶるに随う。
世間の賞賛や非難に惑わされるな。
咲いては散りゆく庭先の花のようなものだから。
地位の変化にも心を乱されるな。
空に浮かぶ雲が風まかせに形を変えるようなものだから。
たしかな価値観があれば、世間の評判なんてカンケーない。
また価値観がなければ、大切なものが何か分からなくなる。
たとえば資産運用の世界でありがちなのは、
個人投資家が株式投資でインデックスと比較しがちなこと。
TOPIXや日経平均に勝った負けたという話は、
運用成績が給料に影響する仕事で運用している人の基準。
そうした喧騒に無縁でいられる方が運用は安定するものだ。
人生においていちばん大切なのは、
自分なりの美学や美意識を養うことかもしれない。
以上で菜根譚・連載をいったんおしまい。
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