美学を持って生きる/菜根譚・前集55,66、後集70

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老子の(33章)「足ることを知る者は富めり」にはじまり、
古今東西で説かれた「足を知る」ことの大切さ。
もちろん中国古典の集大成である菜根譚にも残されている。

まずは前集55項と66項を続けて紹介すると、

奢る者は富みて、しかも足らず。

何ぞ倹なる者の貧しきに、しかも余りあるを如かん。

能ある者は労して、しかも怨みに府まる。

何ぞ拙き者の逸にして、しかも真を全うするに如かん。

贅沢な人はいくら豊かになっても満足できないものだ。
貧しくとも心に余裕を持って生きた方がよいではないか。
才能のある人は努力しても人の恨みを買うものだ。
不器用でもありのままに生きた方がよいではないか。

人は名位の楽しみたるを知りて、

名無く位無きの楽しみの最も真たるを知らず。

人は飢寒の憂いたるを知りて、

飢えず寒えざるの憂いの更に甚しきたるを知らず。

世間では名誉や地位があることが幸福とされるが、
そうしたことに無縁の人の方が幸せに生きている。
世間では飢えや寒さに耐える暮らしは不幸とされるが、
そうしたことに無縁の人にはそれより苦しい心の悩みがある。

隣の芝生は青く見えるもの。
でも本当は私の芝生もあなたの芝生もいつも青々としている。
いつだって今いる場所が一番幸せのはずなんだ。
それが分からなければ、常にないものねだりで悩むだろう。

最後に後集70項より。

寵辱に驚かず、閑かに庭前の花開き花落つるを看る。

去留に意無く、漫ろに天外の雲巻き雲舒ぶるに随う。

世間の賞賛や非難に惑わされるな。
咲いては散りゆく庭先の花のようなものだから。
地位の変化にも心を乱されるな。
空に浮かぶ雲が風まかせに形を変えるようなものだから。

たしかな価値観があれば、世間の評判なんてカンケーない。
また価値観がなければ、大切なものが何か分からなくなる。

たとえば資産運用の世界でありがちなのは、
個人投資家が株式投資でインデックスと比較しがちなこと。
TOPIXや日経平均に勝った負けたという話は、
運用成績が給料に影響する仕事で運用している人の基準。
そうした喧騒に無縁でいられる方が運用は安定するものだ。

人生においていちばん大切なのは、
自分なりの美学や美意識を養うことかもしれない。

以上で菜根譚・連載をいったんおしまい。

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