恋を出発点に人と世界との間の偶然を考察した九鬼周造。
時代背景も踏まえるとまた別の姿が見えてくる。
「いきの構造」が発表されたのは1930年。
ここにいたる約20年、文化人は週刊誌ネタだらけ。
- 1909年 森田草平(夏目漱石の弟子)と平塚らいてうの心中未遂。
- 1912年 北原白秋と松下俊子の不倫、与謝野鉄幹と鳳晶子の不倫。
- 1916年 大杉栄、伊藤野枝、神近市子の三角関係。
- 1918年 島村抱月の後を追って、松井須磨子が自殺。
- 1921年 炭鉱王・伊藤伝右衛門の妻、柳原白蓮が恋人と駆け落ち。
- 1923年 有島武郎が波多野秋子と心中。
- 1924年 中原中也、小林秀雄、長谷川康子の三角関係。
ちなみに白蓮事件はNHKの朝ドラで取り上げられ、
たぶんそのおかげで長らく絶版だった名著、
長谷川時雨「近代美人伝」が復刊されている。
こんな時代背景を受けて九鬼周造は、
恋はつかず離れずの関係にとどめるべき!
と主張したかったのかもしれない。
九鬼の母親も岡倉天心と不倫関係にあったしね。
また当時のインテリまでもが恋に溺れたのは、
江戸時代の士農工商という身分制度が崩壊するなかで、
「自分探し」に迫られたという時代背景もあったのかも。
自分を探す中で他者を求めずにはいられない。
そして愛する人が投げ返してくれる自己像が特に重要…。
なんでこんな風に考えてみたかというと、
士農工商と終身雇用ってなんだか似ている気がするから。
バブル崩壊後の日本は終身雇用が成り立っていたときは、
人と世の中との関係性は固定され、ゆらぐことはなかった。
終身雇用が崩壊し、就職氷河期が訪れる中で、
「自分探し」ってキーワードが浮上してきたような…。
今の時代も他者を求める中で脚光を浴びたのがSNSかな。
そして求めるものは"Love"から"Like"に変わった。
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