無文字社会の古代日本では言葉の威力が極めて強かった。
人が口から発する「音」に霊力が宿るという考え方だ。
敷島の 倭の国は 言霊の 助くる国ぞ 真幸ありこそ
(日本は言霊が助ける国。私が「ご無事で」と宣言したから、もう心配いらないよ。/万葉集3254)
さて古事記においては、
- 神武天皇の大和平定
- 雄略天皇の葛城山(奈良県と大阪府の境界)の平定
などの戦いの場で、天皇が「お前は誰だ」と問い、
相手が先に名を名乗る、といった場面が多く描かれている。
- 先に名を名乗る=言霊を奪われる=相手に服従する
という意味が込められている。
自分の名を知られた途端に相手の支配下におかれる。
婚約の儀式にも受け継がれ、男性が女性の名前を尋ね、
女性は「人生を捧げてもいい」と思った男性にだけ名を告げる。
古事記にも雄略天皇に名を聞かれた引田の赤猪子が、
天皇へ嫁ぐ日を待ち続け、老婆になってしまうという話がある。
こうした言霊信仰は戦いの場で「我こそは~」と名乗りをあげる、
武家社会の到来まで続いていたんじゃないかな。
となると、むやみに言挙(コトアゲ)しないことで霊力を養う、
という考えに、日本人は本当に長い間、囚われていたことになる。
もしかすると日本人の口数の少なさと関係があるかもね。
以上で年内にまとめたかった「古事記を読む」シリーズはおしまい。
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