浦島太郎は原型からだいぶ形が変わってしまった昔話。
「丹後国風土記」(8世紀前半?)には、
- 助けた亀に連れられて竜宮城へ…
- 玉手箱をあけるとお爺さんになってしまう
という現代の中心部分は存在しない。
風土記は女性の熱烈な恋を描いた昔話。
海で釣りをしていた「水江浦島子」に神の娘が一目惚れ。
「賎妾が意は、天地と畢へ、日月と極まらむとおもふ。但、君は奈何にか、早けく許不の意を先らむ。」
この世に天地がある限り、太陽と月が輝いている限り、
私はあなたを愛し続けます。あなたの返事を聞かせて。
と愛の告白をして、浦島を常世(あの世)の国へ連れて行く。
そして故郷に帰りたいという浦島に渡された玉手箱。
その中に入っているのは、なぜか娘自身。
浦島が約束をやぶって玉手箱を開けてしまうと、
娘は湧き出る雲とともに常世の国へ飛び去っていく。
大和へに 風吹き上げて 雲離れ 退き居りとも 我を忘らすな
私のことを忘れないで、という和歌を残して。
「万葉集」(8世紀半ば)になると話はだいぶ違ってくる。
釣りに夢中になった浦島が、この世と常世の境を超えてしまい、
海で出会った海神の乙女と出会い、常世で一緒に住み始める。
愛の言葉も特にないことから、もはや恋が主題ではなく、
「老いもせず 死にもせずして 長き世に ありけるものを 世間の 愚か人の」
むしろ不老不死を手に入れたはずの人間が、
神との誓いを破ったことで楽園を喪失する昔話になっている。
また玉手箱で一気に歳をとる設定は「万葉集」で登場。
風土記と万葉集。
いずれも8世紀の文献だけど、浦島太郎の話が微妙に違う。
ちょっぴり時代背景を推測してみると…
日本には女性の純愛を尊ぶ文化があったけど(風土記)、
男尊思想の中国の制度に基づき、国造りを進める過程で、
女性の恋が主題の話はマズイと書き換えられた(万葉集)。
そんなとこだろうか。
※亀・竜宮城・玉手箱のセットは室町時代の「御伽草子」が起源
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