脳が複雑だから永遠には生きられない?/更科功「ヒトはなぜ死ぬ運命にあるのか」

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「生まれ生まれ生まれ、生まれて、生の始めに暗く、死に死に死に、死んで、死の終わりに冥し」(空海「秘蔵空論」)

私たちはなぜ生まれてきて、なぜ死んでいくのか?
そんなことを考えはじめると空海に怒られそうだがやはり知りたい。

更科功「ヒトはなぜ死ぬ運命にあるのかは、
生物の死の根本的な要因について論じた仮説を紹介している。

本書で紹介される仮説は、

  • 種の保存説
  • 生命活動速度論
  • 進化論的寿命説

の3つに加えて、生物が存在するために不可欠な

  • 自然淘汰による死

を加えた全部で4つ。

自然淘汰的死亡説

まず自然淘汰というと、ダーウィン「種の起源」が引用元と誤用される、
「変化に適応できたものが生き残る」というイメージが強いが完全な間違え。

著者による自然淘汰のまとめは以下の3点。

  1. 同種の個体間に遺伝的変異(子に遺伝する変異)がある
  2. 生物は過剰繁殖する(実際に生殖年齢まで生き残る個体数より多くの子を産む)
  3. 生殖年齢までより多く行き残った子がもつ変異が、より多く残る

イギリスの天文学者フレッド・ホイル(1915~2001)が、
もっとも単純な生物が生きていくために必要な酵素が偶然作られる確率を

「10の4万乗分の1」

と算出しており、一見、不可能な確率に見える。
しかしこの途方もない偶然を可能にするのが自然淘汰なのだという。

そして自然淘汰が働くためには、生物は死ななくてはならない。

「生物に標準装備されている絶対に必要な死は、次の世代に受け継がせないための死ということができるだろう。」

種の保存説

自然淘汰は2つに分けられる。

  1. 安定化淘汰…生物を変化させないように働く自然淘汰
  2. 方向性淘汰…生物を変化させるように働く自然淘汰

変化した者が生き残ることもあるが、変化しない者が生き残るケースの方がはるかに多い。
有益な突然変異より、有害な突然変異の方が圧倒的に多いからだ。

それなら、なぜ死ななければならないのか?

最近まで次の世代のために死ぬという説が支持を集めていたが、

「20世紀の後半まで、動物の様々な行動は「個体の利益」ではなく「種の利益」のために進化したと考えられてきた。そのため、利他行動のような個体レベルでは説明が難しい問題も、「種の利益」のために進化したと解釈されてきた。しかし現在では、こういう解釈はされていない。」

しかし種の保存説については科学的な証明を待つまでもなく、
老化や寿命の存在を説明するために、老化や寿命を前提にしているので、
結局何も説明することにならない、と著者は説く。

生命活動速度論

マックス・ルブナー(1854-1932)が、代謝速度と寿命の関係を(1908)、
レイモンド・パール(1879-1940)が、生命活動の速度と寿命は逆相関を(1928)、
それぞれ発表したことで、生命活動速度論が20世紀半ばまでの有力説に。

  • 同じ重さで比べると一生のあいだに使うエネルギー量はどの種でも同じである
  • 一生のあいだに心臓が拍動する回数はどの種でも同じである

という2つの説から寿命の法則を見出そうとした理論だ。

その後、デナム・ハーマン(1916-2014)が、
酸素を含むフリーラジカルが細胞を酸化させるため、
年齢とともにダメージが蓄積して老化を起こすことを発見する(1956)。
この酸化ストレス説が生命活動速度論の理論補強となったが、
1969年に細胞の酸化を防ぐ抗酸化物質の存在が明らかになり矛盾が生じた。

また20世紀の終わり頃には、生命活動速度論には当てはまらない例が多数発見。
現在ではほぼ否定された理論となっている。

体が大きい方が長生きする、酸化ストレスによって寿命が短くなる、
という傾向があるのは事実だが、そこから寿命の法則を見出すことに無理があった。

かつてのベストセラー、本川達雄「ゾウの時間 ネズミの時間」は、
生命活動速度論に該当するように感じた。

進化論的寿命説

死亡率によって寿命の長さが決まるという、現在の有力説。

「事故などの外因による死亡率の高い種では、自然淘汰による進化によって、成長や繁殖する年齢が早くなり、その結果内因の死亡率も高くなって、寿命も短くなる。」

植物園にはえる雑草はすぐに人間に抜かれてしまうから、
自然の生息地よりも開花が早く寿命が短くなっていたり、
捕食者のいない島にいる集団は寿命が長くなる、といった例がある。

なんだか今の有力説に関する説明がそっけなくて、
もう少し関連書を読んでみたくなった。

ヒトはなぜ死ぬ運命にあるのか?

ここまで死の要因について論じた仮説が紹介されてきたが、
本書のタイトルである「ヒトはなぜ死ぬ運命にあるのか?」については、
末尾に著者の考えが少しだけ述べられていた。

簡単に言うと、脳の複雑性に永続性を掛け合わせるのが不可能だから。

「永遠性と複雑性は相反するもので、おそらく進化では両立させることができなかった。そのため、非常に複雑な私たちのような生物は、比較的単純な(それでもかなり複雑だけれど)生殖細胞の形でしか、次の世代へ受け継がせることができない。進化は、比較的単純なものには永遠性を与えたけれど、ある程度以上に複雑なものには永遠性を与えることができなかったのだろう。そのlつの例が私たちの意識(というか脳)の死なのではないだろうか。」

うーん・・・なんだかモヤっとするが、
だからこそ脳をクラウドにアップロードしたくなるということか?

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