4番目の勅撰和歌集「後拾遺和歌集」(1087年成立)において、
もっとも多くの和歌が収録された歌人、和泉式部。
このうち百人一首に採られた和歌を目にした人が多いかも。
あらざらむ この世のほかの 思ひ出に 今ひとたびの 逢ふこともがな
もう一度、あなたに逢いたい。。。
和泉式部にとって「恋」こそ、この世のすべて。
世の中に 恋てふ色は なけれども ふかく身にしむ ものにぞありける
恋という色はないけれど、恋ほど心に染みる色はないのだから。
また彼女の遺した「和泉式部日記」の冒頭はこうはじまる。
「夢よりもはかなき世の中を嘆きわびつつ明かし暮らすほどに…」
ここでの「世の中」とは「男女の仲」のこと。
この日記は当代随一の歌人が和歌の詠まれた背景を描いた作品。
日記や物語、歌集と、どの側面をとっても俊逸の内容で、
しかもコンパクトにまとめられ、古典の中では最高傑作の1つだろう。
和歌を中心に夢と現実を往き来する物語の編集法がおもしろく、
気が向くたびに目を通していて、ふと気が付いたこと。
ずいぶん「つれづれ」って言葉に出会うような…14ヶ所もあった。
- いとたよりなく、つれづれに思ひ給うらるれば、
- ならはぬつれづれのわりなくおぼゆるに、はかなきことも目とどまりて、
- つれづれも少しなぐさむ心地してすごす。
- 雨のつれづれはいかに。
- 何処か行かん。つれづれなれば、はかなきすさびごとするにこそあれ。
- つれづれのなぐさめにとはおぼすに
- つれづれなぐさめむとて、石山に詣でて
- いとかくつれづれにながめ給ふらんを、思ひおきたることなけれど、
- もしたまふさまなるつれづれなれば、かしこへはおはしましなんや。
- こよなくつれづれもなぐさむ心地す。
- つれづれと 今日数ふれば 年月の 昨日ぞものは 思はざりける
- なにの頼もしきことならねど、つれづれのなぐさめに思ひたちつるを、
- 例のつれづれなぐさめてすぐすぞ、いとはかなきや。
- いとをかしきにも、つれづれなりしふるさとまづ思ひ出でらる。
1つ1つ説明すると長くなるので、ここでは省略。
そもそも「つれづれ」の意味について辞書を紹介すると、
「これ以上続いて欲しくはないと思う状態が単調に続いていて、そこから脱却したい、自分が変化したいと思ってもできず、所在なく、心が晴れないさま。」(大野晋「古典基礎語辞典」)
和泉式部は「つれづれ」を逃れようと、「なぐさめごと」を追い求めるが、
そんなことをしても、結局は「はかなきすさびごと」にすぎないと嘆く。
そしてさらに深い「つれづれ」へと沈んでいく…。そんな印象を受ける。
和泉式部から300年後の兼好法師「徒然草」。
こちらは発想を転換し、「つれづれ」を楽しんでいる。
「つれづれ」があれば、目の前のことを精一杯楽しめる♪
関心事が「恋」だけだった閉鎖的な貴族社会から時代は変わり、
人生の自由度が広がるとともに、「つれづれ」が輝き出す。
私もずっと「つれづれ」が怖くて、退屈しのぎでごまかしてた。
兼好の時代より、もっともっと自由なのにもったいないよね。
最近、不思議な巡り合わせで、これならば…って方法を見つけ、
今年中に今後の人生をデザインし直すつもりなんだ♪
コメント
まろ様
今朝、ちょうど「徒然草」と「女流日記文学」のことを考えていました!こういう偶然て面白いですね、不思議というか。
『和泉式部日記』には「つれづれ」が14回も出てくるんですか!知りませんでした。
女性の(ひいては人間の)根源的孤独を著した『蜻蛉日記』には、「ものす」が大量に出てきますが、『和泉式部日記』においては14回も出てくる「つれづれ」が、一つのキーワードなのかもしれませんね。
この語に注意して、もう一度読み直してみたくなりました!
平安女性の「つれづれ」。やはり置かれた状況(通い婚という、自由であるけれども不自由な、閉じられた生活の中での孤独)に深く関係しているのかな、と思います。
兼好の「つれづれ」は、まろ様のおっしゃるように、楽しんでいる感じがありますよね。
「この世は無常だからこそ素晴らしい」「つれづれが良いのだ」「四十余りにて死ぬるこそめやすかるべけれ(でしたっけ?うろ覚え)」等、兼好の逆説的な、時には少々過激な価値観が面白くて、若い頃けっこう繰り返し読んでいました(笑)「枕草子」→「徒然草」はその後の日本人の美意識に、多大な影響を与えているように思います。
まろ様が最近見つけられたという「今後の人生をデザインし直すための方法」どんなものなのか、気になりますな・・・(笑)
長文失礼しました(汗)
私はまだまだ「徒然草」から抜け出せません。人生の転機がやってくると、徒然草を読み直してエンジンかけるというか、最近だとこのあたり
http://www.pixy10.org/archives/28026893.html
http://www.pixy10.org/archives/29798358.html
まぁ2,3年ごとに転身を繰り返す私なので、デザインし直しはめずらしいことじゃありませんが…。
前回はリーマンショックをきっかけに「ノーベル経済学賞めざす♪」と言って大学院へ行ったりしましたが、今回はそこまでの暴走ではありません(笑)