チンパンジーからヒトの進化を読む/松沢哲郎「想像するちから」

この記事は約3分で読めます。

ヒト以外の霊長類の研究から人間への認識を深める。

そんな霊長類学者のゴリラの本に引き続き、

想像するちから今度はチンパンジーの本を読んでみた。

著者は昨年、文化功労者にも選ばれた松沢哲郎氏。

ヒトとチンパンジーとの対比の中で、

著者が人間の進化にとって重要と考えるのは、

  1. 仰向け寝が社会的知性の原点
  2. 直観像記憶と引き替えに言語を獲得

の2つのようだ。

チンパンジーの赤ちゃんは母親にしがみついて成長する。

体脂肪率が4%と低く、寒さ対策としてこの形になった。

一方の人間の赤ちゃんは体脂肪率が20%であるため、

親子が離れ、子が仰向け姿勢で寝られるから、

  • 見つめ合う、微笑む機会が増大
  • 離れているから親子が声でやりとりする
  • 仰向けだから、手が自由になり物を操る

ということが人は生まれながらにしてできる。

ここを出発点に社会的知性が発達していった。

  1. 生まれながらにして、親子の間でやりとりするようにできている
  2. 一歳半頃になると同じ行動をするようになり、行動が同期する。
  3. 行動が同期するなかで、逸脱した行動、自分がしたことのない行動があると、だいたい三歳くらいから真似る。
  4. 模倣を基盤として、相手の心を理解することができるようになる。

ホモルーデンスそういえばガブリエル・タルドは「模倣の法則」で、

社会はすべて模倣から生じたものと言っていたか。

そしてホイジンガが「ホモ・ルーデンス」で、

遊びこそ文化の起源であると指摘していたが、

その遊びの創造には模倣の要素が不可欠といえる。

そんな模倣の大元に「赤ちゃんの仰向け寝」がある!

さて続いて個人的にドキッとするのが直観像記憶の話。

目に映ったものを写真のように記憶する能力は、

人間よりもチンパンジーの方が優れている
のだという。

記憶と言語のトレードオフなのでは?と著者は言う。

人間は直感像記憶を失うことで言語を獲得したということ。

著者は「仮説」と書いていたけど、私は10代半ばまで、

  • 日本語を話す、読む、書くがままならず
  • 代わりに教科書は写真を撮るように一瞬で記憶

という奇妙な症状があり、日常会話ができるようになるにつれて、

驚異的な記憶力が徐々に失われていったという経験がある。

私の10代はチンパンジーからヒトへの進化なのか?

最後に著者は、こうした記憶と言語の違いから、

人間の特徴は「想像する」ことにあるのでは?とまとめる。

チンパンジーは「今、ここの世界」に生きている。だからこそ、瞬間的に呈示された目の前の数字を記憶することがとても上手だ。しかし、人間のように、百年先のことを考えたり、百年昔のことに想いを馳せたり、地球の裏側に住んでいる人々に心を寄せるというようなことはけっしてしない。想像する時間と空間の広がり方が違う。今ここの世界を生きているから、チンパンジーは絶望しない。「自分はどうなってしまうんだろう」とは考えない。たぶん、明日のことさえ思い煩ってはいないようだ。それに対して人間は容易に絶望してしまう。でも、絶望するのと同じ能力、その未来を想像するという能力があるから、人間は希望をもてる。どんな過酷な状況のなかでも希望をもてる。

キレイな結論でなるほどーと感じてしまうけど少し変。

「今」が大切なのは私たち人間にとっても同じだし、

アインシュタインでさえ頭を悩ました問題でもある。

さらに言えば、私たちには記憶力があるからこそ、

過去から現在といった時間の連続性を認識できるのだ。

だから「私」が続いている実感があり、そこに「生」を見出す。

おそらく記憶の中に心があり、未来を想像する源だ。

記憶力に優れたチンパンジーが本当に想像しないのかな…

コメント