2018年に経産省から「キャッシュレス・ビジョン」が示された頃、
他の先進国と比較してキャッシュレス決済比率が低いから、
2020年の東京五輪までに改善しないと世界の恥、みたいな話があった。
そんなのは表向きの話で、政府の究極的な目標は、
- 通貨・紙幣の廃止し、デフレの一因とされるタンス預金をデジタル通貨へ移行
- デジタル通貨に価値が時間とともに減価する課税制度を付する
にあるのだろう、という話を以前書いた。
高額紙幣をなくす、レスキャッシュ社会(現金の少ない社会)を目指すべきと説く、
ケネス・ロゴフ「現金の呪い」が上記の考えを確信させてくれる。
この本が一般向けに販売されているのが不思議なのだが、
財政・金融政策のために市民から財産を奪う方法論が示されている。
まぁ視点は国家で市民生活は視野にない、というのは経済学者にありがちか。
著者が高額紙幣をなくせ!と主張するのは、
- 高額紙幣は発行残高に比して流通量があまりに少ない
- それは地下経済(とくに犯罪組織)に利用されているから
- なくせば現金の持ち運びが不便になるから犯罪・脱税も減る
といった論理。
紙幣がなくなり、硬貨中心になったら持ち運び不便というけれど、
そうしたら麻薬が犯罪取引の基軸通貨になるだけでは?
だから著者が一番主張したいのは、
中央銀行がゼロ金利、量的緩和で行き詰まった金融政策のその先の、
「マイナス金利政策」にはレスキャッシュ社会の後押しが不可欠、
ということなのだろう。
そして日本語版への序文では、本書の内容を実現すれば、
日本以上にメリットが大きい国はないぞと進めてくる。
なんかアメリカの経済学者って日本で実験したがるよね(苦笑)
日本は貨幣流通量が欧米よりも多く、国民1人あたり約77万円(約9割が1万円札)。
- 犯罪が少なく、現金を家に持っていても安全
- 高齢者のタンス預金需要
という点を差し引いても、地下経済の規模が欧米よりも巨大なのでは?
と著者は主張していたが、実際のところどうなのだろう?
なお本書で抜けている一番大切な論点が、
日本語版の解説(一橋大学の齊藤誠教授)の末尾で指摘されている。
「各国の経済政策に普遍的な正義があるとは必ずしもいえなくなったときに、中央銀行が発行した紙幣や自生的に流通している暗号通貨は、合理性を著しく欠くような規制や統制を強く受けている正規経済に対するアンチテーゼとなり、非正規経済において自由な取引を実現する媒介として重要な役割を果たすのではないであろうか。」
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