日本の色に関する言語の変遷を知りたいと調べていたら、
佐竹昭広(1927~2008)の「古代日本語における色名の性格」が、
ぜひとも読むべき論文らしいのだが、手に入りづらい。
(岩波現代新書「万葉集抜書」に収録されているが絶版)
城一夫「日本の色のルーツを探して」で内容が紹介されているので、
取り急ぎここの記述を参考にしながらまとめておくと。
古事記や日本書紀に登場する四色は、もともと色を表す言葉ではなく、
- 赤 = 明(めい)…夜明けとともに空が赤く色づいていく状態
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黒 = 暗(あん)…太陽が沈んでしまった暗い闇の状態
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白 = 顕(けん)…夜が明けて辺りがハッキリと見えることの「著」から転じた言葉
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青 = 漠(ばく)…青みがかかった状態をさす言葉で、「漠」のさんずい「シ」は青い水、「莫」の字は、草むらに太陽が沈んだ薄暗い「青」の状態
というように光の色に対応して生まれたもの。
古代社会に赤・黒・白・青以外に色名称がなかったわけではなく、
「紅」「茜」「緑」「紫」「丹」などがあったが、
植物や鉱物などの名称を転用しているところが少し違う。
赤・黒・白・青は末尾に「し」をつけることで、
「あかし」「くろし」など色を表す形容詞となるが、
「くれないし」「むらしきし」という表現は存在しない。
純粋に抽象概念の色名称と言えるのは、赤・黒・白・青の四色である。
この佐竹説は後に大野晋(1919~2008)によって反論されている。
「青」は「藍」、「黒」は「泥、涅」から来ており、
また「赤」も土からの名称と考えられるので、
純粋に光に由来する色は「白」だけではないかと。
ここまでいろいろな色の話が登場したが「黄」がないのが興味深い。
古代中国の色彩感覚では「黄」はかなり重要な色で、
中国神話で最初の帝を「黄帝」と名付けていたり、
宮殿の門は黄色に塗って「黄門」、そして黄河文明の「黄河」。
日本が黄色を認識するのは、中国の陰陽五行説が入ってきてからのことになる。
「木、火、土、金、水」に「青、赤、黄、白、黒」の五色が対応。
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