昨日に続き、池谷裕二「脳はなにげに不公平」より。
本書のタイトルの元となった、2013年に著者が発表した論文、
を紹介したエッセイが興味深い。
脳は不平等な世界の方が安定する
脳内の神経細胞をつなぐシナプスには強弱があり、
その強さの違いを調べたところ、
- 強いシナプスと弱いシナプスには100倍もの強度差がある
- 強いシナプスはほんの一握りで、大多数は弱いシナプス
- 人間社会の年収分布の形とほぼ一致した
ということが分かったという。
そして平等なシナプスのみでできた脳回路にはない利点として、
- 動作が安定すること
- 省エネであること
が挙げられるのだとか。
だからと言って人間社会においても同様と主張する研究ではなく、
「不平等がもたらす安定性は、下流層が不平をたれず、一握りの勝者に素直に追従するシステムだけに有効な原理です。」
と述べている。
また他のエッセイで紹介している2012年に発表された論文では、
「自分は社会的地位が高い」と思って行動してもらう実験をしたところ、
下流層の人でも貧欲さが増し、非道徳的な態度になるという結果が出て、
モラルの低さは生まれつきではなく地位が作ったものだということが判明。
最近ではパナマ文書事件で、上流階級のモラルの低さが話題になっているが、
人間社会がシナプスと異なるのは、ヒトには「心」があるからと言えるかな。
サッカーは選手の能力のバラツキが少ないチームが強い
似たような研究を急速にデータ分析が進むサッカー界からひとつ。
クリス・アンダーセン、デイビッド・サリー「サッカーデータ革命」で紹介された、
スイスの経済学者エゴン・フランクの研究。
サッカーの試合結果に影響する要因には下記の4つがある。
- 偶然
- ホームアドバンテージ
- 先発11人の能力の平均レベル
- 11人の選手の能力の差の少なさ
4番目の要因が面白く、チーム力がほぼ同じであれば、
選手の能力のバラツキが少ないチームの方が勝つ確率が高いとのこと。
バラツキが大きいとチームの弱体化につながるというわけではなく、
「チーム内に、能力の劣る選手が才能あるチームメイトから学べるような雰囲気があれば、チームパフォーマンスが高まりやすくなる。このため、選手間に能力差があるチームは、シーズンを通じてチーム全体の実力を高める余地が大きいと言える。」
人間社会に応用できるのは脳よりもサッカーってことかな。
今後はプレミアリーグを制したレスターを題材にどんな研究が出てくるか楽しみ。
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