ここ1年くらい会社法116,117条(反対株主の株式買取請求とその価格の決定)
に関する裁判を思いっきり楽しんでいる。私にゃ意見書を書く資格はないけど、
何だか面白くなっちゃって、図書館に通って法律書読んだりして、文章にしてみた。
ありがちな展開なので、ここに載せておけば誰かの役に立つかも?
[事件の概要]
非上場企業の株主総会で、株式に譲渡制限を付ける定款変更が決議され、
これに反対する株主が保有株の買取請求。裁判所に価格決定の申立て。
[株主側] ※私はこっちの立場
B/Sの会社保有の土地・建物のみを時価評価に直し、時価純資産法で株価を算定。
大型スーパーに賃貸する収益不動産を保有しており、これが時価に直すと高い。
[会社側]
将来経営が悪化するという経営計画を元にした、DCF法で株価を算定。
簿価純資産をも下回り、株主側の出した株価の約10分の1の数字
そして以下に私が頭の整理がてらまとめてみた文章。
会社法の施行により、株式会社は様々な種類の株式を発行できるようになりました(会社法107,108条)。その中でも株式に譲渡制限及び取得条項を付する際には、より厳しい要件での決議が求められ、また、これに反対する株主には株式買取請求権が認められています。さらに、本件の会社法116条1項に基づく株式買取請求においては、自己株式の取得に係る財源規制もありません。(会社法461条)
これらの規定は、全株式に譲渡制限を付する決議がなされた場合、会社法が最後の砦となって反対した株主を保護する、との方針を打ち出しているものと考えられます。このことを踏まえて、株式の価格を算定すべきです。
将来にわたって株式を保有する会社側にとっては、DCF法算定による株価で株式を買取る行為は、極めて合理的な投資行動と言えます。しかし本件は、会社法が株主保護のために定めた、株主の株式買取請求権に基づく株式の価格決定です。本件のようにDCF法による価格が、時価純資産法による価格を大幅に下回る場合、DCF法の採用を認めるべきでしょうか? このような株価算定を認めてしまえば、将来の業績に不安がある時期に、株式に譲渡制限や取得条項を付し、DCF法を用いて反対株主から株式を安く買取る、という手法の濫用につながりかねません。
また、非上場企業の株式について、取引事例法や配当還元法で価格を算定する場合にも同様のことが言えます。事前に経営陣に友好的な者との間で、低廉な価格で取引をしておくことで、取引事例を作ることができてしまいます。配当は、企業の業績等に連動して増減することは少なく、取締役会や多数派株主が配当を決定するため、多数派の意思で左右することができてしまいます。いずれにせよ、会社側が価格を操作できる可能性がある算定手法は、公正さを確保することが困難であるため、公正な価格を決定する際に考慮すべきではないと考えます。
公正な価格とは、様々な株価算定手法から算出された価格の中で、最も高い価格と同等でなければならないと考えます。なぜなら、この最も高い価格は、会社の人的・物的資源がより多くの収益を生むために、とるべき行動を示すものだからです。
例えば、本件で争いとなっている時価純資産法とDCF法について検討してみます。時価純資産法がDCF法を上回るのであれば、不採算部門を特定し、より高い収益を導くことのできる者に譲渡することを検討すべきであり、株式価格は時価資産法により株式価格を算定しなければなりません。逆に、DCF法が時価純資産法を上回るのであれば、事業好調を意味し、現経営陣の元で事業は継続されるべきであるから、DCF法をもとに株式価格を算定しなければなりません。
なぜなら、高い方の価格を用いなければ、企業が今後とるべき行動をぼやけさせるのはもちろん、企業の本質的な価値から遠ざかることになるからです。複数手法で異なる株価算定結果が出た場合には、最も高い価格こそが公正な価格です。
よって、本件においては、時価純資産法に基づいて算定された株価こそが公正な価格です。
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