企業に求める「やさしさ」は?
正月休み明けにそんな取材を受けるので頭の整理をいくつか。
人と企業を分けて考える必要はない
やさしく、つよく、おもしろく。
企業経営を「やさしさ」と結びつけた言葉としてまず思いつくのが、
ほぼ日が行動指針として掲げる「やさしく、つよく、おもしろく。」
会社が社会に受け入れられるために、まず「やさしく」あることが大切で、
それを実現するための実行力として「つよく」あることが必要。
そして新たな価値を生み出すための「おもしろく」によって利益をあげる。
強くなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格がない。
ほぼ日の行動指針と似たような名言と言えばやはりこれ。
推理小説好きならご存じのレイモンド・チャンドラー「プレイバック」の名言。
“If I wasn’t hard, I wouldn’t be alive. If I couldn’t ever be gentle, I wouldn’t deserve to be alive.”
調べてみると村上春樹による新訳が発売されており、
「厳しい心を持たずに生きのびてはいけない。優しくなれないようなら、生きるに値しない。」
と訳されているようだ。
企業もまた独自の「強み」を持っていなければ存続は難しいし、
「優しく」の部分は「社会的意義」と読み換えることもできる。
人と企業を分けて考える必要はないのではないか。
利害関係者に対する「やさしさ」とは?
消費者や従業員、株主等の利害関係者への企業の「やさしさ」というと、
良いものを安く、給料を高く、配当を多くとお金の話になりがち。
でもそれは数字にすると分かりやすいから、というだけの話。
ラ・ロシュフコー「戯言集」にはこんな言葉がある。
「強いところのある人だけが真の優しさを持つことができる。優しそうに見える人は、たいてい弱さしか持たず、その弱さは容易にとげとげしさに変じてしまうのである。」【479】
企業がすべての利害関係者の金銭的欲求を満たそうとしていたら、
どこかにほころびが生じて、企業の存続すら危うくなるだろう。
つまりお金の部分は「優しそうに見える」だけ。
私たちがお金目当てだけで交際する人を決めたりしないように、
人と企業との関係もお金のみのつながりでは、長続きはしないだろう。
投資家が企業に求める「やさしさ」とは?
ひとつ考えられるのは、自社の魅力や欠点を誠実に伝えてくれること。
これもふたたび企業を人に置き換えれば分かりやすい。
女性起業家(出版業)として成功した近藤信緒が書いた、
約70年前のベストセラー「人に好かれる法」にこんな一節がある。
「長所だとうぬぼれているものがかえって短所であり、短所だと思っていることが長所かもしれないのである。」
「人に好かれようとか、信用を得ようとか思う前に、まず真心を持って相手の真心を引き出し、お互いによい面だけを伸び伸びと出し合うように努力し合えば、必ずお互いのなかに美しい関係が生まれてくる。」
人付き合いでは長所よりも短所によって好かれることの方が多いもの。
自分が短所と思い込んでいることが、他者から見れば長所であったり、
その逆もあったりと、一人で抱え込んでいるうちは真実は見えてこない。
企業経営においても外部の利害関係者との対話は有益なはず。
そして企業の問題が改善される局面で株価が急騰するものだ。
だから良い面だけでなく、悪い面も包み隠さず発信して欲しい。
最近は日本でも企業と投資家との対話の必要性が叫ばれ、
投資家が企業に対し様々な情報開示を求めるようになってきた。
しかしその一方で運用会社をはじめとする大口の投資家は、
企業との対話を通じてどのように社会に貢献しているのか、
といった情報開示に消極的な場合が多く、少し卑怯なのではと…。
この状況で企業に情報開示の誠実さを求めることは難しい。
人間関係と同じように、企業の「やさしさ」を引き出すためには、
利害関係者の側にも「やさしさ」が必要と言えるだろう。
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