スイスでは3月からロブスターを生きたまま茹でたら違法になるそうだ。
条文ではこんな風に定められているとか。※トムソン・ロイターの記事より
「ロブスターなどの活きた甲殻類は氷や氷水に漬けて輸送してはならない。水中生物は常に自然と同じ環境で保存しなければならない。甲殻類は失神させてから殺さなければならない。」
先日、世間話で耳にしたところによると、おそらくこの話が発展して、
タコとイカについても今後の調理法について議論がされているらしい。
タコの方が知能が高いから痛みが分かるはずだが、
イカはタコより知能が低いから踊り食いしてもよいとか…。
ひとつの視点や基準で善悪の境界を引きたがる人間の愚かさは、
いつまでたっても改善の余地が見られないのだなぁとしみじみ思う。
歴史を振り返れば、こういう方向に考えが進んでいった場合、
- 「異教徒」は人間ではないので殺してよい。
- 「肌の色」が白くない人間は知能が劣るので征服してよい。
というようにろくなことにならない。
近年ではナポレオンが国家運営に「統計」を取り入れた頃から、
人間自体も数理の対称となり、平均からの逸脱は生物学的に「異常」。
やがてこれはナチスのユダヤ人虐殺の科学的根拠にもつながってゆく。
人が善悪の境界を引くと暴力的になってしまうことは歴史が証明している。
植物が人間より高度な知性を持つ可能性
調理の話に戻ると「痛みを感じるかどうか?」という基準しかない。
動物愛護を唱える人は、多くはビーガン(倫理的ベジタリアン)のようだが、
近年は植物が人間よりも高度な知性を持つ可能性も指摘される。
以下は「植物は<知性>をもっている」からの引用だが、
これを読めば知性や学習、コミュニケーションといった能力は、
動物の専売特許ではないことが分かるだろう。
「植物の生理は、動物の生理と異なった原理に基づいている。動物は、脳、肺、胃など少数の器官にもっとも重要な生命機能のほとんどすべてを集中させるといった進化を遂げてきた。それに対して植物は、簡単に捕食されてしまうことを考えて、いくつかの中心的部分に全機能を集中させないようにした。」
これは投資家がよく知る分散投資の考え方だし、
インターネットも植物によく似たネットワーク構造だ。
どちらも人類がここ100年の間にようやく築いたリスク回避戦略。
それが植物にはあらかじめ内包されていたということだ。
「植物は自分のテリトリーを守るため、エネルギーの多くを地中部分の成長に傾けている。こうして軍事力で圧倒し(つまり大量の根を生やして)、土地を占有する。ところが植物同士はいつも戦うわけではない。・・・植物は攻撃や防御を行う前にライバルの素性を調べ、遺伝子が似ているとわかったら、戦うよりも手を組む方を選ぶことがわかったのだ。」
同種でありながら殺し合う人間よりも高度なのでは?
もはや動物はかわいそうだけど植物はOKみたいな考え方は意味不明だ。
「知性=脳」ではないホヤの事例
さらに「知性」とはなんなのか考えさせられる事例がホヤ。
ホヤは生まれて最初にすることは終のすみかを探すこと。
いい岩を見つけると、生涯同じ場所で過ごし、
海水を飲み込み、プランクトンを食べ、残った水を吐き出す…
この作業を延々と繰り返すことで生きていく。
シンブルな生き方を追求する過程で、カロリー面の効率化を図り、
多くのカロリーを必要とする脳を自分で食べてしまう!
終のすみかさえ見つかれば、ホヤにとって脳は邪魔な存在でしかない。
知性の優劣を基準に生き物を格付けするなんて、
人が地球上で最も優れていることを前提とした思い上がりにすぎないのだ。
※参考…How Humans Learn: Lessons from the Sea Squirt
五観の偈(ごかんのげ)
このように様々な視点で物事を見ていくと、
食に関しては「ありがたく命をいただく」という姿勢以外に、
私たちにできることはないのかもしれない。
禅宗で食事の前に唱えられる「五観の偈(ごかんのげ)」であれば、
信用してもいいのではないだろうか。
原文の書き下しは、
- 功の多少を計り彼の来処を量る。
- 己が徳行の全欠を忖って供に応ず。
- 心を防ぎ過を離るることは貪等を宗とす。
- 正に良薬を事とすることは形枯を療ぜんが為なり。
- 成道の為の故に今この食を受く。
これを現代語に訳すと(かなり自己流に)、
- たくさんの人のおかげで今この食事をいただけることに感謝します。
- 未熟な私がこんなに美味しいものをいただけることに感謝します。
- 貪りや怒り、愚かな心から離れるために美味しくいただきます。
- 食事は心も体も健全に保つための良薬なのです。
- 人として成長するためにいただきます。
「美味しい」ってことは「味が美しい」ことなんだから、
「美しい」心でご飯を食べなければ、とあらためて認識するのだった。
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