資本主義を救え!/ロバート・ライシュ「最後の資本主義」

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ロバート・ライシュの本を読むのは「暴走する資本主義」以来。
投資家・従業員・消費者は三位一体であるということを忘れ、
投資家として自分さえ儲かればという姿勢でいると、

  • 商品やサービスの品質低下(偽装問題)
  • 給料が低く抑えられる(労働問題)

といった形で結局は自分に跳ね返ってくることを気付かせてもらった。

さて今回の最新作「最後の資本主義」はどんな内容なのか?
原題は”Saving Capitalism”であり、資本主義の終焉を訴える内容ではない。
アメリカには富の偏重を修正することでよりよい社会を作ってきた歴史があり、
現在の行き過ぎた資本主義を修正する方策がある、というのが著者の主張。

現在の資本主義の問題点

著者は自由市場は次の5つの構成要素から成り立っているが、

  • 所有権:所有できるものは何か。
  • 独占:どの程度の市場支配力が許容されるか。
  • 契約:売買可能なのは何で、それはどんな条件か。
  • 破産:買い手が代金を支払えない時はどうなるか。
  • 執行:これらのルールを欺くことがないようにするにはどうするか。

近年は富裕層がロビー活動などを通じて、
これら市場を機能させるルールに対する影響力を強めたことで、
市場の姿が歪み、格差や不平等が生じていると指摘している。

ピケティは、資本に対する利益が経済成長率を長期的に上回る限り、一国経済における資本のシェフは拡大し続けると推測している。しかし、彼は資本に対する利益が、なぜ時を経ても減少しないのかについては説明していない。通常、富が蓄積されるにつれ、そこから高い利益を上げることは困難になってくるはずだ。・・・考えられる説明は、増大する富のシェアを支配する者が、市場を機能させるルールに対する大きな影響力を獲得したということであろう。」P112

よって改善策は大きい政府か小さい政府かという問題ではなく、
誰のための政府なのかという観点が大切だと訴えている。

「自由市場」か「政府」かという選択が重要なのではなく、人々が幅広く繁栄を分かち合うように設計された市場か、ほぼすべての利益が頂点にいる限られた人々に集中するように設計された市場かという選択が重要なのだ。」P287

本書の総論はざっとこんなところだが、
政治献金と企業経営に関する各論もまとめておこう。

政治献金の問題と対策

近年アメリカでは特定の企業が市場支配力を持つことで、
起業が著しく減少している(1978~2011年にかけて半減)。
その背景には拡大する大企業のロビー活動があり、

  • シティズンズ・ユナイテッド裁判(2010年)…企業にも「人格」(法人格)を認め、したがって財政的貢献を通じて本格的に選挙に参加する権利があると宣言。
  • マカッチェン裁判(2014年) …個人が連邦選挙の候補者と政党に対して寄付できる12万3200ドルの上限を撤廃。

という2つの判決が事態をより悪化させているという。

政治資金の流れを調査する団体”Center for Fesponsive Politics“で
個別企業の支出額が確認できるが目を疑うような金額だ。

著者は経済的独占と政治的支配力の統合を解消するために、
以下のような対策を提言している。

  • シティズンズ・ユナイテッド裁判とマカッチェン裁判の判決を覆す。
  • あらゆる政治的経費の支出元を完全に開示する。
  • 政府高官が退職してから最低5年間は、自らが政府にいた間に監督・監視や規制するなど公的な関係があった対象企業や事業者団体、ロビー会社、非営利団体などに雇用されることを禁止する。
  • 鑑定人、学者、シンクタンクの研究員は、公的性格を持つ証言、書籍、論文、研究に対する外部資金の出所をもれなく公関する。

企業経営の問題と対策

富の偏重の象徴とも言えるCEOの報酬と一般労働者の賃金の格差。

CEO報酬は1978年から2013年の間に937%上昇したが、同時期の労働者の賃金上昇はわずか10.2%であった。」P127

なぜこのようなことが起きたのか?
著者は1980年代以降のSECの規制緩和に原因があると指摘する。

  • 1982年…企業は自社株買いの際にその規模を公表が義務づけられ、任意の一日における時価総額の15%以上の自社株買いが禁止されていたが、その規制が撤廃された。
  • 1991年…企業の役員が、厳密には買い戻しのタイミングという内部事情を知るインサイダーであるにもかかわらず、情報公開なしにストック・オプションを行使し現金化してもよいことにした。
  • 1993年…役員報酬が企業業績に連動しているのであれば100万ドルを上回る役員報酬分について法人所得から控除することを認めた。

この問題に対する解決策にはすでに動き始めているものがあり、
カリフォルニア州では2014年より法人税率を決める際に、
企業の平均的労働者の賃金に対するCEOの報酬の比率と連動させている。

また「ベネフィット・コーポレーション」という新たな企業形態も現れ、

カリフォルニア州べンチューラに本社を置く大手アパレルメーカーのパタゴニアは、いわゆる「べネフィット・コーポレーション」という形態で組織されている。営利企業でありながら、株主とともに従業員や地域社会、環境の利害を考慮することが設立定款で求められている企業のことだ。ベネフィット・コーポレーション は認証制であり、その業績はBラボのような非営利の第三者団体によって定期的に監査される。」P262

翻訳者によると日本にも3社あるのだとか。

歴史は繰り返す

最後に著者が紹介している19世紀末の有識者の発言を見ておこう。
いわゆる「反トラスト法」がアメリカで制定される直前の頃にあたる。

この国の事業体は、比類ないほどの企業資本を統合させて、経済的な支配のみならず、攻冶力を求めて大胆に闊歩している。・・・社会を支配するのは、富なのか人間なのか。主導するのは、カネなのか知性なのか。公営放送局を埋めるのは、教育のある愛国的自由人たちか、それとも企業資本に封建的に支配されている者たちなのか。そういう問題が必ず起こるだろう。」(1873年/裁判官エドワード・ライアン)

ウォール街が国を支配している。もはや、人民の人民による人民のための政府とは言えず、ウォール街のウォール 街によるウォール街のための政府になってしまっている。」(1890年/メリー・リース)

自由は富を生み、富は自由を壊す。新しい経済発展の炎が我々の周囲を巡り、我々は、競争が競争を殺してしまったこと、企業が国家よりも大きくなったことに気づき、そして我々の時代の直截な問題は、財産が下僕ではなく主人になりつつあることにあると知ったのだ。」(1894年/ヘンリー・デマレスト・ロイド「富と共和国」)

今の時代と驚くほど似ており、変革の時は近いのかもしれない。

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