原丈人「21世紀の国富論」は絶対読むべし!

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原丈人「21世紀の国富論」が出版されて約2年がすぎた。
その後サブプライムローン問題が勃発し、リーマン破綻。
原丈人氏のこの本は、ますます輝きを増しているように感じる。
今日再読した上で、2年前の記事を上書きしてさらに充実させたくなったので。

ボーグル氏の新刊を紹介した際も触れたけれども、
数字やデータを重視しすぎたことで、世の中おかしくなってしまったような。
なぜこんなことになったのか?

原氏はアメリカが多民族国家であることを指摘。
アメリカでは異なる文化的な背景をもつ人々が一緒に働いているから、
経営判断をみんなが客観的に納得できるように数値化する手法を発明。
経営合理化の手段として当初は有益だったが、だんだんとエスカレート。
たとえば、経営判断の手段の1つでしかないROEの向上が経営の目的に…。
ROEは既存のものの効率化は図れても、将来の価値は最大化できないのに。

そんな原氏の考える「会社の存在価値」をP204~207より抜粋すると、

会社の存在価値は、まず事業を通じて社会に貢献することが第一で、その結果として株主にも利益をもたらすというのが本来の姿です。企業価値の向上は結果であって目的にはなりえないのです。
 しかし、目的を実現させるためにあるはずの手段を、簡単に目的であると、勘違いしてしまう悲しい習性をもつのが、人間というものなのかもしれません。
 手段と目的の転倒というこの現象をもたらすのは、一体何なのでしょうか? 私はその最も大きな原因がものごとの数値化にあると考えています。
 人間が幸せになると言うことが一番の目的で、お金持ちになることやGDPをあげることは幸せになるための手段でしかないのです。しかし、お金やGDPは目的化され、その思考が個人にまで波及する。
 仕事を通じて生きがいをつくり、その結果として個人も金銭的な富や社会的充実感を得る。その実現のために会社があります。

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☆おまけ☆
原丈人氏は糸井重里氏のページにたびたび登場。
原丈人さんと初対面
・とんでもない原丈人さんシリーズ…第1部第2部第3部第4部


[以下、2007年9月に紹介したときの記事2つを合体]

一番刺激的だったのが、私のROE信仰が壊されてしまったことかな。
過去・現在の日本と比較して、アメリカ流はダメって批判する人が多かった。
しかし著者は、将来主流となる産業は何か?という視点から、
ROE等の財務指標にばかり傾倒する企業は、やがて競争力を失うと。
また第2章で語ってる新しい産業、っていうのがとっても説得力あるんだよ。

ハード部門を中国に売却したIBMを代表として、
アメリカは利益率の高いソフトに力を入れているが、それは大きな間違え。
これまでは人間が機械に合わせて動いていたけれど、これからはその逆。
機械が人間に合わせる、って考えが次世代の基幹産業。
これをPUC(パーベイシブ・ユビキタス・コミュニケーションズ)技術と呼んでる。
使ってることを感じさせず(パーベイシブ)、どこにでも偏在し(ユビキタス)
利用できるコミュニケーション機能。

PUCの産業化を考えたときに、ハードとソフトを切り離すことはできない。
だから利益率の高いソフトだけを作るなんて事は無理。
ハードを作るからには製造原価が発生する以上、ROEの押し下げ要因。
やがては、ROEと株価の相関性に疑問符が付され、
優れた製品・サービスを世の中に提供する企業本来の目的が見直される。

また原氏はベンチャーキャピタルのあるべき姿についても語っている。
本来のベンチャーキャピタルは資金を投じるだけではなく、
資本政策や人事、営業活動も支援する事業持ち株会社に近い役割だとか。

私の知るベンチャーキャピタルは、社長の事業計画に騙されて出資をして、
後になって株主総会とかで騙されたーって騒いでるってイメージ…。
でもそんなイメージも間違ってはないみたいで。

原氏によると、ベンチャーキャピタリスト1人が担当できるのは、35~50億円程度。
でもお金が集まりすぎて、ファンドマネージャーや経営コンサルタントが、
ベンチャーキャピタルへ進出してきて、「リスク分散」の考えが持ち込まれた。
こうしてベンチャーキャピタルが本来担うべき使命が失われてしまったと。

たしかに純粋な株式投資でも似た感じで、分散投資→インデックス運用
という流れから、多くの投資家は会社の業務や決算の内容を知らない。
※関連記事「分散投資が投資家を無責任にしたのか?」06/12/29

また、ベンチャー企業に対して長期集中投資が避けられるようになったのは、
時価会計制度の影響があると、著者は語り、こんな解決策を提示。

・資金拠出側の会計処理は、
  投資ではなく複数年度で償却する研究開発費
・資金を受け入れた企業側は、
  行使価格が非常に低い新株予約権を発行する

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コメント

  1. とよぴ~ より:

    国富論って言うと自分が春先に読破したアダムスミスの読んでいて脳みそがバクハツしそうな本を想像してしまいがちですが全く違う一冊みたいですね?(笑)
    現在、読んでいる(孫子の兵法や本田宗一郎)のが終わったら早速、読んでみます。

  2. まろ@管理人 より:

    読書家のとよぴ~さんにはぜひぜひお薦めしたいです。
    国富論って題は失敗じゃないかなと(笑)
    アダムスミス想像しちゃうと買わないですもん。
    だから私がこの本徹底的に広めたる!

  3. 少し前ですけれど、僕も原丈人さんの「21世紀の国富論」読みました。
    まろさん同様、ROE信仰をバッサリ否定していたのには軽くショックを覚えました(笑)
    でも単なる米国資本主義の批判で終わるんじゃなく、
    新しい産業を育成していこうと著者本人がベンチャーキャピタリストとして実践されているのは説得力ありましたね。

  4. まろ@管理人 より:

    なんだか原さんの予測していた世界に近づいてきそうな…。
    今もう一度、読んでみたい本ですね。ついでに続刊みたいの出してくれないかなぁ…

  5. PHP新書から、原さんの新著「新しい資本主義」が出ていましたね。
    http://www.amazon.co.jp/%E6%96%B0%E3%81%97%E3%81%84%E8%B3%87%E6%9C%AC%E4%B8%BB%E7%BE%A9-PHP%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E5%8E%9F-%E4%B8%88%E4%BA%BA/dp/4569708323/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1244271220&sr=8-1
    目新しい内容はほとんどないかも知れませんが、僕は早速買ってこれから読んでみる所です。

  6. まろ@管理人 より:

    微妙にかぶっているので(というか早稲田の講演会でたくさん記事をもらったせい?)、1章読み終えたところで止まっていて、そんなわけでブログでまだ紹介していません。

  7. Tansney Gohn より:

    まろさん
    原丈人さんと言えば確か今週月曜日NHKのマネー資本主義に出演しておられましたね。公益資本主義というのを提言されていたように記憶しております。

  8. とよぴ~ より:

    「会社の存在価値は、まず事業を通じて社会に貢献することが第一で、その結果として株主にも利益をもたらすというのが本来の姿です。企業価値の向上は結果であって目的にはなりえないのです。」
    原さんのこの言葉いいですね?
    どっかで似た言葉があったなぁ~とパソコンに貯め込んだ名言のメモ帳から探したら松下幸之助の言葉がありました♪
    「会社を経営するのはお金のためではなく社会を良くするためである」

  9. まろ@管理人 より:

    Tansney Gohn さん
    マネー資本主義の最終回にチラっと出てましたね。沸騰都市シリーズで紹介された時の映像の使い回しが主でしたが。
    公益資本主義の話は、原さんの「新しい資本主義」の方で出てきます。
    とよぴ~さん
    なんかタイミングよく、今日学校で「松下幸之助に学ぶ」って題の講演会聴いてきて、メモ書きを記事にしてありますよ。