夢中問答集は禅僧・夢窓国師と足利直義(尊氏の弟)の問答集。
京都・天龍寺で繰り返されたという両者の問答の内容はもちろん、
記録・編集・印刷といった裏方の腕の良さも組み合わさり、
日本における出版の歴史はここからスタートしたと言えるかも。
タイトルは「夢中で問答」したのではなく「夢の中の問答」 という意味。
そのあたりが問答集の64話出てくるから、ピックアップするしてみると。
「汝が所見の不浄の処も、殊勝の境も、皆これ夢中の妄想なり。」
良いことも悪いことも、すべては夢の中のできごと。
夢だと分かっていても、名誉や利益を追い求めてしまうのは、
「我が所見は皆夢なりと信じずれども、大夢いまださめざる故に、夢の境界に化かされて、その中について、是非得失を論ずるがごとし。」
大きな夢から目覚めていないから、夢の境界に惑わされているから。
私と直義との問答は目覚める前、すなわち「夢の中」の話ってこと。
「夢」は多彩な意味を持つことば。
夢の内へ向かっていく時は輝かしく、夢の外へ出た後ははかない幻。
夢窓は夢の覚めた先に「本分の田地」(禅の極地)があるという。
でも夢や幻こそが人生の希望だったりするからよく分からない。
夢と現実の境界線を行ったり来たりしながら、
うつろいゆく面影や名残りを心に宿す、夢現(ゆめうつつ)の世界。
人生ってそんなもので、完全に目覚めることなんてあるのかな…
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